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デジタルデバイド解消に貢献するウェアラブルデバイスの可能性 現場での健康・コミュニケーション支援事例

Tags: ウェアラブルデバイス, デジタルデバイド, 高齢者支援, 障がい者支援, 見守り

はじめに デジタルデバイドの現状とウェアラブルデバイスへの期待

デジタル化が社会のあらゆる側面で進む中、高齢者や障がいのある方々など、デジタル技術の利用に困難を抱える「デジタルデバイド」の問題は依然として存在します。この隔たりは、生活の質の低下や社会からの孤立を招く深刻な課題です。

一方で、技術の進化は日々続いており、デジタルデバイド解消に貢献しうる新たなツールやサービスが生まれています。その一つが、腕や体に装着して利用する「ウェアラブルデバイス」です。ウェアラブルデバイスは、スマートフォンよりも簡易な操作で、常時身につけて利用できる特性から、デジタル機器の扱いに不慣れな方々にとって、デジタルの恩恵を受けるための有効な手段となり得ます。

本稿では、ウェアラブルデバイスがデジタルデバイド解消にどのように貢献できるのか、特に支援現場での具体的な活用方法や事例、導入にあたって考慮すべき点について、分かりやすく解説します。

ウェアラブルデバイスとは何か その基本的な機能

ウェアラブルデバイスとは、衣服やアクセサリーのように身につけて使用する電子機器全般を指します。最も一般的なのは、腕時計型のスマートウォッチや、リストバンド型の活動量計です。

これらのデバイスには、心拍数や活動量(歩数など)を計測するセンサー、現在位置を把握するGPS、通信機能(スマートフォンとの連携や、単体での通信)、そして情報を表示する小さな画面や、振動・音声で通知を行う機能などが搭載されています。

スマートフォンと連携することで、電話の着信やメッセージの通知を受け取ったり、記録された健康データを家族や支援者と共有したりすることも可能です。単体で通信できるモデルであれば、緊急時にデバイスから直接連絡を取ることもできます。

デジタルデバイド解消へのウェアラブルデバイスの貢献可能性

ウェアラブルデバイスがデジタルデバイド解消に貢献できる領域は多岐にわたります。主に以下のような点が挙げられます。

健康・安全管理の強化

ウェアラブルデバイスは、利用者の健康状態や活動状況を継続的にモニタリングするのに役立ちます。例えば、心拍数や睡眠の質を記録したり、一日の活動量(歩数など)を計測したりすることで、自身の健康状態に関心を持つきっかけを提供できます。

また、転倒を検知して自動的に支援者に通知する機能や、設定したエリアから外れた場合にアラートを発信する位置情報把握機能などは、一人暮らしの高齢者や、認知症などで見守りが必要な方々の安全確保に貢献します。常に身につけているため、緊急時にも発見しやすいという利点もあります。

コミュニケーションの簡易化

複雑な操作を必要とするスマートフォンやパソコンに比べて、ウェアラブルデバイスは通知機能や簡易的な音声入力・出力機能を備えている場合が多く、デジタル機器が苦手な方でも比較的容易にコミュニケーションのきっかけを掴むことができます。

例えば、家族や支援者からのメッセージを振動や音声で通知し、画面に簡単なテキストを表示する機能は、大切な情報を見逃しにくくします。音声入力を利用すれば、簡単な返信や定型文の送信も操作しやすくなります。

ナビゲーション・行動支援

GPS機能を搭載したウェアラブルデバイスは、現在地の確認や目的地までの経路案内を振動や音声で行うことができます。視覚的な情報に頼るのが難しい方や、新しい場所への移動に不安を感じる方にとって、安心して外出するためのサポートとなります。

また、服薬時間や特定の行動を促すリマインダー機能を設定することで、日々の生活リズムを整えたり、忘れてはいけない用事を思い出したりするのに役立ちます。

支援現場での具体的な活用方法と事例

これらの機能を踏まえ、支援現場ではウェアラブルデバイスをどのように活用できるのでしょうか。具体的な方法や事例をいくつかご紹介します。

事例1 高齢者向けの見守りサービスとの連携

あるNPOでは、地域の高齢者を対象とした見守りサービスの一環として、希望者に活動量計機能を備えたウェアラブルデバイスを提供しています。このデバイスで計測された一日の活動量や睡眠時間は、同意を得た上で家族やNPOの支援員が確認できるシステムと連携しています。

これにより、離れて暮らす家族がさりげなく親の様子を把握したり、活動量の明らかな低下が見られた場合にNPOが声かけを行ったりするきっかけとなっています。デバイス自体は操作が不要で、充電を促す簡単な通知があるのみであるため、デジタル機器に不慣れな高齢者でも抵抗なく利用できているという声があります。

事例2 障がいのある方の地域活動支援

地域の作業所に通う障がいのある方が、一人で公共交通機関を利用する際の支援として、シンプルなスマートウォッチ型デバイスを活用するケースです。事前に設定した経路に基づき、次の乗り換え駅や降りる駅が近づくとデバイスが振動で知らせ、画面に簡単なイラストやテキスト(駅名など)を表示します。

また、万が一迷ってしまった場合や体調が悪くなった場合には、デバイスのボタンを押すだけで登録した支援者や家族に現在地情報とともに通知が送信されるよう設定されています。これにより、本人の「一人で外出したい」という希望を叶えつつ、安全を確保するための有効な手段となっています。

事例3 コミュニケーション補助としての活用

文字盤が大きく、振動通知機能に優れたスマートウォッチを、聴覚に障がいのある方に試用してもらう取り組みを行っているNPOもあります。これにより、スマートフォンの着信やメッセージに気づきやすくなり、家族や支援者とのコミュニケーション機会が増えたという成果が出ています。さらに、簡単な定型文(例:「家にいます」「大丈夫です」)をデバイスから選択して返信する機能も組み合わせて利用することで、よりスムーズなやり取りが可能になっています。

これらの事例は、ウェアラブルデバイスが単なるガジェットではなく、具体的な支援ツールとして現場で役立ちうることを示しています。重要なのは、デバイスの持つ多くの機能の中から、利用者のニーズと支援の目的に合ったものを選び、活用方法をデザインすることです。

実装上の課題と解決策、考慮事項

ウェアラブルデバイスの導入・活用には、いくつかの課題も存在します。

コスト

デバイス自体の購入費用に加え、通信機能を持つモデルの場合は月額の通信費がかかることがあります。解決策としては、安価な活動量計から試してみる、自治体の補助金制度を活用する、あるいはNPO内でデバイスを共有・貸与する仕組みを検討することが挙げられます。

操作の習得難易度

スマートウォッチなどは多機能であるゆえに、操作が複雑に感じられる場合があります。利用者のデジタルリテラシーに合わせて、必要最低限の機能に絞って設定する、大きな文字盤やシンプルな表示が可能なモデルを選ぶ、繰り返し丁寧に操作方法を教える、あるいは操作がほとんど不要なデバイスを選ぶことが重要です。

プライバシーとデータ管理

健康情報や位置情報など、機微な情報を扱うため、プライバシー保護への配慮が不可欠です。利用者の同意を必ず得る、どのような情報が収集され、誰がどのように利用するのかを明確に説明する、データの保管・管理にはセキュリティ対策が施された信頼できるシステムを利用するといった対応が必要です。

充電の手間

ウェアラブルデバイスは定期的な充電が必要です。充電を忘れてしまうとデバイスが機能しなくなります。利用者に合わせた充電リマインダーを設定する、バッテリー持ちの良いモデルを選ぶ、支援者が定期訪問時に充電をサポートするといった工夫が考えられます。

利用者の抵抗感

新しい機器を身につけることへの抵抗感や、常に監視されているように感じる不安を持つ方もいらっしゃるかもしれません。デバイス導入の目的を丁寧に説明し、あくまで「安全・安心のためのサポート」であることを強調する、試用期間を設ける、見た目が目立たないデザインのデバイスを選ぶなど、心理的なハードルを下げる配慮が求められます。

これらの課題に対して、導入前に利用者やその家族、支援関係者と十分に話し合い、合意形成を図ることが成功の鍵となります。

まとめと今後の展望 現場での一歩を踏み出すために

ウェアラブルデバイスは、その携帯性とセンサー機能を活かし、健康管理、安全確保、コミュニケーション、ナビゲーションなど、多方面からデジタルデバイド解消に貢献しうる可能性を秘めています。特に、デジタル機器の操作に不慣れな方々にとって、身体に寄り添う形で情報アクセスや支援を可能にするツールとなり得ます。

もちろん、全ての課題が解決されたわけではなく、コスト、操作性、プライバシーといった導入・活用にあたっての考慮事項が存在します。しかし、これらの課題に対して適切な対応策を講じ、利用者のニーズに合わせて機能を限定したり、サポート体制を構築したりすることで、その有効性を引き出すことができます。

NPOの皆様や支援現場の関係者の皆様には、ウェアラブルデバイスの最新動向に関心を持っていただき、ご自身の活動の中でどのように活用できるか、小さな規模からでも検証してみることをお勧めします。技術はあくまで手段であり、重要なのは、それが利用者の方々のQOL(生活の質)向上や、より安心して地域で暮らせる環境づくりにどう繋がるかという視点です。関連する展示会に参加したり、製品のデモを体験したり、他のNPOの取り組み事例を参考にしたりすることで、具体的なイメージを掴むことができるでしょう。ウェアラブルデバイスが、デジタルデバイド解消に向けた現場での新たな一歩を支援するツールとなることを期待しています。